伊藤由貴 (いとうゆき)

『Typhold Mary』

映像インスタレーション(7:45)

2m×2m×90cmx


メアリーマローンは昔から、料理が得意だった
その特技を生かしてメイドとして、裕福な家庭に住み込みで働いていた
1907年に事件が発覚する
彼女の作った料理からチフス菌が発見されて
57名の感染者と3人の死者を出した
そこから彼女の人生は大きく変わっていく

私は2005年からメイド喫茶で働いていて、13年の間に4店舗のお店を経験している
昔はチラシ配りなんてしてなかったし、深夜にシフトも入ってなかった
今はお客さんとお酒を飲んだり、あまりガールズバーと変わらない

2008年6月8日/秋葉原で無差別殺傷事件がおこった
同じ時間帯にいつもきていた常連さんが来ない
店の中にサイレンの音が響きわたった
オタクという犯人像が報道されたことで、メイド喫茶に客足が途絶えてしまった

事件後、メアリー・マローンはノースブラウザー島の中にある病院に収容された
健康保菌者だった私は、無自覚な加害者だ
実は、チフス菌に感染している患者は複数いたらしい
それにも関わらず私だけが23年間隔離されていた背景に、貧しいメイド、女性、独身
これらが複雑に重なり合ったことが考えられる
この島はいま誰にも使われず、廃墟化がすすんでいる

メイド喫茶はオタクだけの孤立した小さな島だった
いつのまにかテーマパークみたいになって外国人観光客でにぎわうようになった

一緒に働いていた子は結婚や就職をして引退していく
私がこの仕事を長く続けていることに、特に理由はない
コスプレや漫画が好きで、人生の半分を秋葉原で過ごしてきた私にとって、
辞めるという選択肢が見当たらない