柏木和士可 (かしわぎわしか)


――気に入らないならゲームチェンジすれば良い――ジャック・マー
現状の美術ムラの閉塞感を抜け出すため、二つのルール更新を提案する。

1.発表方式の更新 美術館・画廊・評論家・キュレーターが存在しなくても成り立つ方式。 2.鑑賞方式の更新 展示空間に依存せず、日常生活で触れることによる鑑賞。

1.の達成に最低限必要なのは市場。市場の淘汰に晒されず既成ヒエラルキーから湧いて出た利権/金銭を 分配する構造ではコネで雁字搦めの蛸壺的ムラ社会/馴れ合いに陥ってしまう。まず突破口として大衆市 場での流通を目指す。 2.は小林秀雄の「骨董」という文章が参考になった。日常において"骨董"のように人間の本来持つ五感に より選択され、値踏みされ、購入され、鑑賞されること。

【浮世絵⇒新版画⇔創作版画/再統合プロジェクト】 浮世絵は明治期に入り西洋アートの概念、また出版印刷技術の更新を経て、浮世絵の分業製作体制を残 す"新版画"と、西洋アートの流れを汲み自刻自画自摺を是とする"創作版画"に分解された。

今回の作品は現代の浮世絵新版画を製作するというプロジェクトの一環で、摺師山本駿に出会いアドバ
イスを受けながら共同で作成している。まず浮世絵の歴史を継ぐ技術的なバトンを継承しているのだと
示すため、浮世絵技術が最高峰に発達した幕末明治期の浮世絵を復刻してみることにした。※幕末明治
期の質の高い浮世絵復刻は現状では困難だと言われている。

モチーフは"最後の浮世絵師"と呼ばれた月岡芳年。また芳年は"血まみれ芳年"とも呼ばれ、太平の続いた 江戸から黒船来航を得て戦乱の時代へと突き進んで行った江戸の庶民を映す一枚を選んだ。復刻を試みることにより浮世絵から継承された技術を学び考え、現代シリーズを生み出す基礎とする。

本来浮世絵は手にとって鑑賞するように作られている。現存する和紙の中では数少ない古来の製法で漉 かれた那須烏山・程村紙の手触り、高品質の和紙でのみ実現できる固着材を使わず絵の具を直接和紙の繊 維に摺込む江戸摺りの発色、手に取ることで鑑賞可能となる空摺り等の遊び。イミテーションに囲まれ た現代に本物のマテリアルを提示することを志したシリーズとなる。 ※浮世絵シリーズは来春から、ECサイト・浅草木版館・その他店舗で販売予定

⇒今回のプロジェクト実現は、ほぼ現代には技術継承され得なかった"主線彫り"の難しさをレーザーを初 めとする彫刻機技術やデジタル技術で克服出来たことが大きい。今後、新版画以降歩みを止めた伝統版 画と、新技法の試行錯誤はあるものの技術的限界が根幹に残る創作版画の再統合を試み、新たな時代の 木版画として作品を発表して行きたい。

【仏像ペーパークラフト】 市場機能を介して、自己複製を繰り返しながら増殖し続ける作品発表形式を探ったシリーズ。ヒトを媒 介にネットワークによる情報伝達を試み、始めの情報発信基地として書店・土産物屋・ECサイトで展示 販売している。展示品を見た購入者/鑑賞者が仏像を組立て再展示することにより展示/鑑賞者数を有機的 に増加させる正のフィードバックを試みる。

日本を代表する仏像でありながら気軽に拝観することの叶わぬ国宝・文化財等の仏像を手に取って身近 に親しむことの出来る形式"ヘリティッジ・アーカイブス"としてデータ化しストックする計画。"製作者= 鑑賞者"の日常の中で、紙を切り出し、説明書を参照し、糊付けし組上げる、という延々と続く単調な行 為の中から徐々に姿を顕す仏像に「出会った」と感じられるような鑑賞体験を目指す。 最終的には、何処でもプリントアウト出来るというペーパークラフトの特性を活かしオンライン上で永 遠に保存されるアーカイブを構築したい。 漆原(モデル製作)/柏木(コンセプト・フォーマット)の共作