酒井陽祐 (さかいようすけ)

『記憶になれなかった日常』

水墨画

1300mm × 1300mm


人生においてアルバムを作るなら、そこに選ばれるであろう名場面はたくさんある。
結婚式や、子供の誕生、祖母の還暦祝い、運動会。しかし、私が興味があるのは、そこに羅列されないような、繰り返す毎日の営みである。

日々反復する営みは、繰り返すほどに固有の名前を失い記憶のアクセスを失くしていく。
例えば、毎日家族で夕ご飯を一緒に食べる。何年も何年も。数千回の繰り返しである。それを言葉にしようとすると、「僕たちは毎日一緒に夕ご飯を食べた」と最大公約数的にしか表現出来ないような記憶の総体となってしまう。

それでは、その総体に組み込まれなかった、断片化され、アクセス不能になった無数の記憶達はどこかへ消え去ってしまったのだろうか。

そうではない、と私は思う。
記憶から消えてしまったかもしれないが、身振りは確かにあったのだ。
それは私たち身体において、記憶になれなかった営みの軌跡、総体としての記憶の背後にある断片化したかけらの戯れなのである。


<水墨画について>
本作品では、理想世界の表現である水墨画の範疇に「日常」を取り入れることを目指している。
また、水墨画の代表的特徴である「余白」に対し、断片化と反復によって画面を埋め尽くすことで、無数の隙間的余白を生成することを意図している。